比較広告資料館 弁理士 山口朔生
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目次

あやかり比較(1)

番号を使って比較

「あやかり比較」とは、ライバルの知名度を利用して、有名な香水と「同じです」と言いながら、「実は違うんです」を強調する比較広告でした。
日本での争いに入る前に、その理解のために、同じ様に番号を使って有名な香水にあやかるタイプを見ておきましょう。

写真1はLe Modele Parfume という名称のバー状香水です。
ABCストアーで6本セットが21.25ドル。
1本当たり400円弱ですが、その上に5ケース買うと1ケースおまけ、という買いやすさです。

写真1

写真2は1本のバーの拡大です。
バー自体に「C8」とナンバーが入っているのがポイント。
その台紙には「思い出してみようシャネル5の香りを」「試してみよう当社のC8」を、と。

写真2

ただしバー1本のケースごとにその裏面には「シャネル5はシャネル社の登録商標です」と確認をしてあります。

写真3(矢印などは筆者)

1ケースに入っている6本の番号と有名香水との対比は次のとおりです。

写真4

ココシャネル、カルバンクライン、ティッファニー、シャネル・・など香水に縁のない男性でも知っている名称と番号を対比しています。
ただしこうした情報は台紙に印刷してあり、取り出したバー自体には番号が記入してあるだけです。


スイートラバー

そんなタイプの比較広告の背景が理解出来たとして、同じような香水が日本で争いになりました。

昭和52年のこと、ジュンアンドカンパニー(以下「JC」)と称する日本のメーカーが「スイートラバー」と名づけた香水を売り出しました。
その名称のままではいつまでも無名の香水、誰も手に取ってくれません。そこでどうしたか。
まずスイートラバーに番号を付けました。その番号を有名な香水と対応させたのです。前記のLe Modele と同じ発想です。
カタログでは次のようにうたっていました。

私どもJCで17種類のアメリカやヨーロッパの女性から愛され、親しまれている名香と同じ調子の香りが誕生しました。
その香りの調子は、世界の名香と同じで、しかもお求めやすい値段です。
有名な香水と香りは同じ、だけど値段が違います、という典型的な「あやかり比較」です。


比較の対象は

スイートラバーと、それに対応する「名香のタイプ」は次のような名称が並んでいます。

世界の名香のタイプで言えば・・・
SWEET LOVER No.120 Miss Dior(ミス ディオール)
SWEET LOVER No.121 Chanel No.5(シャネル No.5)
SWEET LOVER No.122 Rive Gauche(リブ ゴーシュ)
SWEET LOVER No.123 Arpege(アルページュ)
SWEET LOVER No.124 Caleche(キャレッシュ)
SWEET LOVER No.125 Mitsuko(ミツコ)




SWEET LOVER No.136 Madame Rochas(マダム ロシヤス)


ディオールが訴えた

比較されたディオールほか10社がJCを訴えました。
理由は消費者の誤認であり、その結果営業上の利益を害された、というものでした。

ディオールらはまず、香水の配合とはきわめて高度な創造的作業である、という点を強調しました。
調合では100種類以上(!)の原料を調合するのだが、香りの良否は組み合わせいかんで決定される。
そのために長年の経験、研究、不断の努力が必要。
そうなると同一の香りを製造することはほとんど不可能。

それなのにJCは番号を指定して注文をすれば名香と同じ香水が手に入ると宣伝している。
これは消費者に誤認を生じさせることが明白だ、こうした誤認によって当社は消費者を奪われ営業上の利益を害された。
だから5000万円の売上の1割を支払え、という訴えでした。



裁判所は

裁判所はディオールらの主張を検討して誤りを指摘しました。
JCは広告において、香りの「調子」「タイプ」と表現している。香りが「同一」とはいっていない。
この表現から消費者はどう受け取るだろうか。

番号とこれに対応する香水が「同一」の香りを持つとは認識しているとは考えられない。
だから消費者も「同一」だとは誤認していないのだ。
そして消費者が混同していないのなら、ディオールが損害を受けたという主張は認められない、という結論になりました。

この裁判であやかり側が勝ちました。
しかしこの攻防で分かるとおり「あやかり比較」は一定の限度をわきまえないと「タダ乗り」と攻撃される危険性をはらんでいるのです。


「東地判昭55.1.28」より




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