比較広告資料館 弁理士 山口朔生
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目次

あやかり比較(2)

ウエート・ウオッチャーズとは

これはダイエット食品業界の争いです。
アメリカに「ウエート・ウオッチャーズ」(以下「WW」)という名称の著名なダイエットスクールがある。
この裁判の始まった1989年には全米で毎週60万人が教室に出席しているというから巨大なチェーンシステム。

最近(平成30年1月)でも、次回の大統領選挙への出馬がうわさされる女優で司会者、実業家のオプラ・ウィンフリー氏(63)もWWに出資し取締役を努めており、彼女のダイエット効果で株価がニューヨーク株式市場で急伸した、と報道されています。


ダイエットの特徴

この教室のダイエットの特徴は組織化したカロリー計算にあります。
精密に計算した食品をバランスよく取ることで、栄養のアンバランスの不安なく体重を減らすもの。
しかしその程度のことは誰でも考え、それで世界で60万人も生徒を集められるわけがないですね。

決め手は「カロリー代替食(exchanges)の販売です。
この代替食は6種類に分けた食品グループで構成された、カロリーがほぼ同じ別の食品という。
この代替食を指導にしたがって食べていれば、バランスが取れてカロリーの少ない食事ができることになる。
もちろんカロリーは計算すれば誰にでも分かること。
なぜそんな市場が形成されるのでしょう。

それは実際にやってみれば分かることですが、カロリー計算はとても面倒。
普通の人には長く続けられない。
もう一つは、カロリーばかりに気を取られていると、栄養が片寄って体を壊してしまう。
これでは元も子もない。
WW教室のメンバーになればそんな手数が一切省けて、かつ安心。
だから商品価値が高いのです。
写真1はWWの代替食の外箱です。


写真1 WWの代替食

その側面(写真2)には次のようなプログラム情報が印刷してあります。


写真2 WWの容器の側面のプログラム情報

この食品はWWのプログラムのために製造したものです。
当社の食事プランにしたがって正しく使用すればウエートコントロールに有効です。


ストウファーのあやかり比較

後に被告となるストウファー(以下「SF」)は40年以上の歴史を持つ食品メーカーだが冷凍食品は扱っていなかった。
そこで進出の最初に着手したのが、WWの代替食でした。

写真3はSFの冷凍食品「リーンクイジン」の外箱。
この食品はWWに隠れて発売したのではない。
初期には堂々とWWのパンフレットに広告の掲載を申し込んで断られたという経過さえありました。


写真3 SFのリーンクジンの外箱

その後87年には「パレード」誌に次のような広告を出しました。
当社の低カロリーシリーズなら25種類。
これだけあればあなたのWWのプログラムももっと満足したものにできるでしょう。
本品はWWの代替食です。

WWの方は6種類なのだからその差は大きいです。
下段には次のような断り書きが。
WWはWW社の登録商標です。
この代替食は公表されたWW代替食の情報を基に製造したものです。
WWによって許諾されたり保証されていることを意味するものではありません。

これは雑誌の広告文ですが、我々がアイオワで入手したSFの容器にも写真4のような比較広告と断り書きが掲載されていました。


写真4 SFのリーンクイジンの容器の側面

WWは同社の登録商標です。
本製品はWWの公開された情報に基づいてSFが製造したWWの代替食です。
この製品は、同社の許諾を得たものではありません。

これは明らかにSFの「あやかり比較」です。
「違うんだ」を強調するのが比較広告のはず。
しかしこのあやかり比較では「おんなじだ」を強調するグループでした。

「おんなじだ」を見せておきながら「だけど安いんだ」が一般のあやかり比較。
ところがこのSFの広告は価格の安さが売りではなく、その種類の豊富さが売り物でした。


裁判では

種類の豊富さを知ってWWの会員からSFの使用者が増えてきました。
一度教室へ出席した会員を代替食で長く引きつけておくことがWWの大きな収入源。
それを侵食されては致命的な痛手です。

そこで会員に通知を出しました。
「他社の代替食には責任は持てませんよ」と。
しかしこの程度の通知では客離れを止められない。
そこで89年にSFを訴えました。
その論点と裁判所の判断を説明します。


(1) 消費者に有用か?
まず商標権者の利益ではなく、消費者の利益の有無です。
公正な競争のもとで消費者に有用な情報を提供できるのならそれが優先される。
商標権者はライバルに使用されても許さざるを得ない、これが比較広告に対する裁判所の一致した見解となっています。

では本件ではどうか。
代替食の製造が1社だけでなく複数存在すること、しかも種類の豊富さを知らせる比較広告です。
これは消費者にとって価値のある有用な情報の提供といえる。

ではSFの比較広告を禁じたらどうか。
こんな有用な情報が消費者に届かないことになる。
したがってSFが他人の商標を引用して比較するやり方を禁じることはできない、と裁判所は判断しました。

(2) 混同しないか?
ランハム法は原則として他人の商標の使用を禁止していますが、しかし一律に禁止しているわけではないです。
この比較広告でいえばWWの食品を購入するつもりで誤ってSFの食品を買ってしまった、という混同の発生が重要。

この比較広告ではどうだろう。
すべて「WWの代替食です」と印刷してある。
するとほとんどの消費者は誤ってSFの食品を買ってしまうといった混同は発生しないだろう、と裁判所は判断しました。

(3) 誤認はないか?
WWの名称は登録商標であるだけでなく、当時でも25年の歴史があり、世界18カ国で毎週50面人が参加しているという組織です。
第三者がそうした著名な商標を利用すれば、提携関係にあるか、保証されているかといった誤解を与えることになるでしょう。
その点を考慮してか、SFの比較広告では常に「提携関係はありません」と明記しています。
そのために著名商標を利用したとはいえ、WWの主張するような「消費者が誤解した」という証拠は存在しない、と裁判所は判断しました。

(4) 購入者のレベルは?
混同や誤認の可能性はその商品の購入者の認識するレベルによって異なります。
WWに言わせると一般の消費者は代替食に対してそれほど知識がない。
だから消費者は当社とSFとの関係を混同する可能性が高い、ということになります。
しかも低価格の商品の場合、選択、購入にそんなに時間をかけない。
ていねいに比較をしない。
だから混同の可能性が高い、との主張です。

では代替食の購入者はどんな人々だろう。
WWのプログラムに参加するぐらいだからダイエット用の代替食の選択は慎重に行うはず。
プログラムに参加していない人でも、わざわざローカロリーの冷凍食品を買うぐらいだからやはり慎重に選択するはず。
そうであればほとんどの購入者はこの商品をいい加減に選択するとは考えられない。
WWの主張に反して混同の可能性は低いといえるだろう、と判断しました。


結論

実際の争いはもっと複雑(USPQで25頁も)ですが、比較広告に限って言えば以上のような判断からWWの主張は認められない、というものでした

19 USPQ2d 1321より


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